2012年11月14日
イーソル株式会社

イーソル、メニーコアプロセッサ向けに、新アーキテクチャのリアルタイムOSのプロトタイプを開発


イーソル株式会社 (本社:東京都中野区、代表取締役社長:澤田 勉、以下イーソル) は、組込みシステム向けメニーコアプロセッサ対応リアルタイムOS (仮名称 MCOS (Many-Core real-time OS)) のプロトタイプ開発を完了したことを発表します。MCOS は、組込みシステム向けメニーコア対応OSとしては、世界初の商用リアルタイムOSとなります (2012年11月14日現在当社調べ)。従来のマルチコアOSと異なる全く新しいアーキテクチャを採用し、マルチコアプロセッサ対応リアルタイムOS 「eT-Kernel Multi-Core Edition」 に代表されるイーソルの高いOS専門技術とノウハウを注入した、独自のスケジューリングアルゴリズムを搭載することで、メニーコアで期待される高いパフォーマンスとスケーラビリティに加えて、組込みシステムに不可欠なリアルタイム性の両立を実現しました。メニーコアは、高い電力効率と、コア数を増減し性能をスケーラブルに調節できる点が特長です。消費電力を抑えながらより高度な制御が求められる、サイバーフィジカルシステム、画像認識やネットワーク通信、車載、医療、交通システム、エネルギー、ロボット分野等の高度な組込みシステムで、MCOS の採用を見込んでいます。

イーソルは、将来の組込みシステムにおけるメニーコアプロセッサの普及を見据え、メニーコアOSの研究開発を進めています。MCOS は現在、4コア、16ハードウェアスレッド (仮想CPU16個相当) が FPGA に搭載されたルネサスエレクトロニクス社製 RH850 ベースの MCU で動作します。「Embedded Technology 2012 組込み総合技術展」 (会期:2012年11月14日(水)~16日(金)、会場:パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)) のイーソルブース (ブース番号:D-17) にて、MCOS のデモ実演を行います。

MCOS は、メニーコアプロセッサのアーキテクチャや命令セットを限定しない設計になっています。今後、複数のメニーコアチップへの対応や、各種機能やツールの拡充を行い、2013年第4四半期に評価版の一般提供を開始する予定です。

MCOS は、シングルコアプロセッサから、キャッシュメモリと共有メインメモリ間の一貫性を維持するキャッシュコヒーレンシ機能を持たない、数百個のホモジニアスおよびヘテロジニアス両方のメニーコアプロセッサまで、コア数を問わずスケーラブルにサポートします。μITRON や T-Kernel を含む従来のシングルコアおよびマルチコアプロセッサ向けリアルタイムOSとまったく異なる、分散型マイクロカーネルアーキテクチャを採用しています。マイクロカーネルの機能はコア間通信を含むメッセージング、コアローカルスケジューリング、スレッド管理など最低限の機能で構成され非常にコンパクトです。このマイクロカーネルはすべてのコアに配置され、デバイスドライバやミドルウェア、そしてアプリケーションはスレッドとして複数コアに分散して動作します。スレッドのコア配置によらず、スレッド間はすべてマイクロカーネルのメッセージパッシングによって接続されます。このサーバ/クライアントモデルはOS自身のサービス実装だけでなく、ミドルウェアやアプリケーションからも利用されます。また、プロセッサコアをクラスタとしてグループ化し、資源やサーバ機能を分割する機能を提供します。

さらに、MCOS 独自のスケジューリングアルゴリズム 「セミプライオリティベーススケジューリング」 により、組込みシステムで重要なリアルタイム性の確保と、負荷分散による高いパフォーマンスを実現します。セミプライオリティスケジューリングでは、二種類のスケジューリングが同時に行われます。一つ目のスケジューリングでは、優先度が高いほうから任意のプロセッサコア数分のスレッドが抽出され、指定された各プロセッサコアを専有して実行されます。プロセッサコアの移動や実行中断が発生せず、実行にかかる時間を計算できるため、リアルタイム性の保証ができます。もうひとつのスケジューリングでは、優先度の低いスレッド群が、処理量や優先度に応じて、残りのプロセッサコアで負荷分散して実行されます。このセミプライオリティスケジューリングと、その他のスケジューリング方式を MCOS プロトタイプで比較したところ、実際の組込みシステムに近い、各スレッドの処理量のばらつきが大きいスレッド構成で、非常に優れた性能を示すことが確認できました。

MCOS を使用すると、アプリケーション開発時、これまでの対称型マルチプロセッシング (SMP: Symmetric Multi-Processing) と同じプログラミングモデルで、実行されるコアを意識することなく開発できます。このため、コア数の異なるメニーコア上でも一度開発したソフトウェアを再利用しやすくなります。さらに、μITRON、POSIX、AUTOSAR の API のサポートも行う予定で、これらのソフトウェア資産の再利用が容易です。

ルネサス エレクトロニクス株式会社 技術開発本部 CPU開発第三部長 杉本 英樹 様 のコメント
「高い電力効率が特長のメニーコアプロセッサは、省電力が求められる組込み機器にも有用なため、現在活発に研究・開発が行われており、今後遠からず、実用段階へ進むと見込んでいます。メニーコアプロセッサの普及には、プロセッサ技術に加え、OSを含むソフトウェア技術の進化と発展が重要です。弊社は、かねてよりマルチコアプロセッサ向けOS開発でイーソル社と協業しており、次世代のマルチコア/メニーコア開発でもイーソルの高いOS技術に期待しています。今回の MCOS のプロトタイプ開発成功により、メニーコア技術がまた一歩前進したことを歓迎します。」

イーソル株式会社 執行役員 ソフトウェア技術統括責任者 兼 技術本部長 権藤 正樹 のコメント
「エンタープライズ、組込みを問わず、プロセッサに搭載されるコアの数は増加の一途をたどっています。しかし、ハードウェアによるキャッシュコヒーレンシ確保を前提とする既存のOSアーキテクチャは、4コア程度が限界となり、それ以上では新しいOSアーキテクチャが必要という事がこれまでの研究成果から明らかになりつつあります。エンタープライズと異なり、より厳しい電力とコスト制約がある組込みシステムで更なる性能向上を図るにはメニーコア技術が非常に重要な次世代技術と考えます。今回発表した MCOS で、組込み機器の進化に貢献するべく、更なる研究開発を推進していきます。」


<補足資料>

■ eT-Kernel Multi-Core Edition について
eT-Kernel Multi-Core Edition は、マルチコアプロセッサを使う組込みシステムのためのSMP型リアルタイムOSです。独自の 「ブレンドスケジューリング」 技術により、ひとつのシステム内で、SMP型/AMP型が混ざった複数個のプログラムを混在させることができます。これにより開発者は、シングルコアプロセッサ利用時の資産やノウハウのそのまま再利用しながら、マルチコアプロセッサの性能を最大限に生かしたプログラムを開発することができます。「Single Processor Mode(SPM)」 と 「True SMP Mode(TSM)」 をベースとする4つのスケジューリングモードを用意しています。プログラムによって適切なモードを選択することで、高いスループットの実現などのSMP型プログラムのメリットと、リアルタイム性の確実な保証やソフトウェア資産の再利用性といったAMP型プログラムが持つメリットの、両方をひとつのシステム内で実現できます。

「eT-Kernel Multi-Core Edition」 詳細



■ イーソル株式会社について
イーソル株式会社は 「Inside Solution」 をブランドスローガンに、1975年の創業以来、組込みソフトウェア業界、および流通・物流業界で実績を重ねて参りました。ユビキタス社会を内側から支える技術者集団として、お客様の満足を第一に、開発、販売からサポートまで一貫したサービス、そしてトータルソリューションを提供しております。弊社は創業直後より30年以上にわたって、高信頼かつ高性能の組込みOS・開発環境・各種ミドルウェアを自社開発、販売し、デジタルカメラなどの情報家電製品から車載情報機器や人工衛星システムにいたるまで、数多くの組込みシステムに採用いただいています。さらに、顧客様のシステムに特化した組込みアプリケーション開発やコンサルテーションも創業時より行っており、これら様々な規模のシステム開発実績による技術とノウハウの蓄積を背景としたサービスは、多くの顧客企業様より高いご信頼をいただいております。また、組込み技術の応用市場としての流通・物流業界においても、指定伝票発行用車載プリンタ、耐環境ハンディターミナル、冷凍庫ハンディターミナルなどの製品企画および販売を行い、高い評価をいただいております。

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