イーソル株式会社(本社:東京都中野区、代表取締役社長:澤田 勉、以下イーソル)と英ARM社(本社:英国ケンブリッジ市、 日本法人:横浜市港北区、代表取締役社長:西嶋 貴史)は、イーソルのT-Kernel「eT-KernelTM」によるARM11TMコアベースの MPCoreTMマルチプロセッサのサポートを進めており、マルチコアプロセッサ対応T-Kernel「eT-Kernel Multi-Core Edition」 として評価版の提供を開始したことを発表します。マルチプロセッサ対応MP T-Kernel は現在T-Engineフォーラム(会長: 坂村健 東京大学教授)が標準化しており、イーソルはこのMP T-Kernel仕様に準拠して試作しました。また同時に、MPCore マルチプロセッサとeT-Kernel Multi-Core Editionを使用するソフトウェアの開発環境として、eT-Kernel Multi-Core Edition と密に統合化された開発スイート「eBinderR」の拡張を進めています。これらを使うことで、マルチコアプロセッサのメリット である低消費電力かつ高性能な組込み機器開発を、eT-Kernel Multi-Core Editionが提供するサービスとeBinderに含まれる 豊富な開発ツールを利用し、効率的に進めることができます。これらの組み合わせは、民生エレクトロニクス機器、車載機器、 モバイル機器、OA機器などの高機能製品の開発に最適です。
ARM11コアベースのMPCoreは、非対称型マルチプロセッシング(AMP:Asymmetrical multi-processing)と対称型マルチプロセッシング(SMP:Symmetrical multi-processing)の、両方のソフトウェア構成をサポートしています(※注1)。eT-Kernel Multi-Core Editionは、こうしたMPCoreの特性を活かして「Single Processor Mode(SPM)」と「True SMP Mode(TSM)」と呼ぶ独自のスケジューリングモードを実装し、SMPとAMPのそれぞれのメリットをひとつのリアルタイムOSで提供することを可能にしました。このスケジューリング機能により、拡張性や高いスループットといったSMPがもつメリットと、高いリアルタイム性やソフトウェア資産の再利用などAMPがもつメリットの、両方を兼ね備えたシステムを開発できます。またeT-Kernel Multi-Core Editionは2つのオープン仕様のインタフェースをサポートしており、 T-KernelおよびT-Kernel/Standard Extensionが提供する標準APIと、POSIX 1003.1, 2003準拠のAPIを提供しています。
こうしたeT-Kernel Multi-Core Editionが提供する機能により、SMP型システムはもとより、シングルプロセッサ向けまたはAMP型システム向けに開発された既存ソフトウェアをMPCore上で再利用しやすくなります。プログラム間の通信には、実行されるCPUコアの違いを問わず、タスク間で利用されるものと同じ通常の通信/同期APIを使うことができるため、既存のソフトウェア資産の移植が容易です。またひとつのOSにより提供されるため、OS間通信にかかる時間を省くことができ、高速な協調動作が可能です。これらの機能は、MPCoreが持つキャッシュのコヒーレンシ(一貫性)制御機能や進化した通信機能を最大限に活用することで実現しました。
MPCoreとeT-Kernel Multi-Core Editionを使用するソフトウェア開発時には、eBinderを使う ことができます。シングルプロセッサを使用するときと同じ、タスク単位の反復型開発モデルを継承しながら、それぞれのCPU コア上で実行されている個々のプログラムのデバッグや、協調動作するプログラム間やシステム全体の解析などが透過的に行え、 PC一台で効率的な開発ができます。またeBinderには、コード効率が優れたARM RealViewRコンパイラが付属します。
ARM11コアをベースとしたMPCoreマルチプロセッサは、シングルプロセッサとマルチプロセッサ間で のソフトウェア資産の移植性に優れた、スケーラブルなソリューションを提供します。競合するマルチスレッド式プロセッサと比べて、 優れた性能や低消費電力性、より簡単で予測可能なスループットを実現しています。ARMは、組込みシステム業界において最も広く 採用されているCPUアーキテクチャで、サードパーティ・プログラムのARM Connected Communityを通じて包括的なサポートを提供 しています。システム設計者は、ARM Connected Communityを通じて、ARM PowerdRシステム設計に必要なすべてのものに容易に アクセスできます。
イーソルは、T-Engineフォーラムの幹事会員として、eT-Kernel Multi-Core Editionのテクノロジーを T-Engineフォーラムに還元し、現在T-Engineフォーラムで開発が進められているマルチプロセッサ対応MP T-Kernelの標準仕様の作成に貢献していきます。
注1)非対称型マルチプロセッシング(AMP:Asymmetrical multi-processing)とは、複数のCPUコアを持つシステムにおいて、それぞれの CPUコアの役割を固定化し、それぞれのコア上で別々のプログラムを処理させる機能分散型のソフトウェア構築方法です。一方、対称型マルチプロセッシング(SMP:Symmetrical multi-processing)とは、それぞれのCPUコアの役割を決めず、単一のプログラムを複数のコアで処理する負荷分散型のソフトウェア構築方法です。AMPでは、従来のシングルプロセッサを使用した場合とほぼ同じように、プログラム内の処理の実行順序が予測可能な環境で動作するため、個々の処理のリアルタイム性を保証することができます。一方SMPでは、アプリケーション全体のスループットを向上させることができますが、プログラムが複数のCPUコアに動的に分割して処理されるため、個々の処理によってはリアルタイム性を確実に保証できない場合があったり、優先度ベースの従来のタスクスケジューリング方式に頼った既存プログラムでは、 CPUコアが空いている場合に、低優先度のタスクが実行されてしまうなど、同期・排他方法に起因する問題が発生する場合があります。
John Goodacre, Program Manager for multiprocessing at ARMのコメント 「イーソルが提供するソリューションにより、マルチプロセッサを利用するシステムにおいてSMPのスケーラビリティと AMPの予測可能なリアルタイム性の両方の利便性を求める開発者に対し、より多くの選択肢を提供できるようになります。また、eBinderに付属するARM RealViewコンパイラテクノロジーにより、オープンソースのツールを使った場合と比べて、最大30%のメモリコストの削減が可能です。」
イーソル株式会社 取締役エンベデッドプロダクツ事業部長 上山 伸幸 のコメント 「弊社のお客様は、高い性能と低消費電力性を有したARM11コアベースのMPCoreマルチプロセッサに注目しています。 ARMと密に協力しながら開発を進めてきたeT-Kernel Multi-Core EditionとeBinderは、MPCoreを利用したマルチコアプロセッサシステム設計のための完全なソフトウェア開発ソリューションです。eT-Kernel Multi-Core EditionとeBinder により、MPCoreの有効な利用と、効率的な組込みシステム開発を現実にします。」
T-Engineフォーラム 会長/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所/東京大学 大学院情報学環教授 坂村 健 のコメント 「今回、我々が開発・標準化を進めているAMP/SMPのMP T-Kernelをアームとイーソルにて試作をして頂いたことに感謝しています。 21世紀の標準組込み開発環境であるT-Engineは、現在殆どの組込みCPUをサポートしており、今後アームのMP Coreもラインナップに加わるので、更に一層T-Engineが標準環境として広く普及していくことに非常に期待しています。今後も積極的にT-Engineをサポート頂きたい。」
■補足資料 eT-Kernelについて eT-Kernelは、リアルタイムOSベンダーであるイーソルがこれまでμITRONで培ってきたノウハウと技術をもとにして、T-Engineフォーラムが 配布するオープンソースのT-Kernelに性能面・機能面で改良・拡張を加えたT-Kernelの拡張版です。システム起動時間の大幅短縮、高速な 割込み応答性、タスク切り替えの高速化、コンフィギュレーションによるメモリフットプリント調整機能、ハードウェア依存部のレイヤー化、 モジュール化による移植性の向上などを実現しました。eT-Kernelには、システム規模と用途にあわせた3つのプロファイルがあります。 μITRONと近い構成を持つμITRONからの移行に最適な「eT-Kernel/Compact」、eT-Kernel/CompactをベースにT-Engine標準のデバイスドライバ が付属した「eT-Kernel/Standard」およびメモリ保護機能とプロセスモデルをサポートする大規模開発に最適な「eT-Kernel/Extended」です。
eBinderについて eBinderは、T-Kernelを使ったソフトウェア開発のための開発スイートです。リアルタイムOSを使ったシステム開発のためにゼロから設計された開発ツール・機能群を使うことで、リアルタイムシステム特有の問題を容易に解決でき、リアルタイムOSを最大限に活用できます。また、JTAG ICEとの連携機能や、複数チーム、複数サイトでの分散開発を支援するプラットフォームパッケージ機能など、大規模なリアルタイムシステム開発に必須の機能を提供しています。eBinderは、C/C++コンパイラを含む各種開発ツール群と、あらゆる組込みソフトウェアのベースとなるターゲットプラットフォームを構成するモジュール群があわせて提供されます。
ARM Connected Communityについて ARM Connected Communityは、約350の企業からなる世界的なネットワークで、ARMアーキテクチャベースの製品を開発するために必要な、システム設計から量産および消費までをカバーした完全なソリューションを提供しています。イーソルは、このARM Connected Community の主要メンバーです。ARMは、販売促進プログラムや、お客様によりよいソリューションを提供するためのメンバー間のネットワーキングの機会など、さまざまなマーケティングプログラムを提供しています。
イーソル株式会社 について イーソル株式会社は1975年の創業以来、「コンピュータエンジニアリングを通じて社会に貢献する」、という理念のもと、 組込みソフトウェア業界、及び流通・物流業界で実績を重ねてきました。お客様の満足を第一に、開発、販売からサポートまで一 貫したサービス、トータルソリューションを提供します。 イーソルはT-Engineフォーラムの幹事会員として、T-EngineおよびT-Kernel関連の技術開発、サービス提供を強力に進めています。取り扱っている組込みソフトウェア製品には、T-Kernel/μITRONベースシステム開発スイート「eBinder」のほか、T-Kernel の拡張版「eT-Kernel」、μITRON4.0仕様準拠「PrKERNELv4」のリアルタイムOSをはじめとするRTOS/ミドルウェア製品群「eParts」 のラインナップがあります。 2004年1月に米国オレゴン州に子会社 eSOL, Inc. を設立し、日本市場のみならず、北米、ヨーロッパ、アジア市場向けに 「eBinder」、「eParts」の販売活動を広げています。
ARM社について ARMは、ワイヤレス、ネットワーク、デジタル家電、画像、自動車、セキュリティ、そしてストレージ機器といった高度なデジタル製品のコアとなる技術をデザインしています。ARMが提供する総合的な製品・IP(知的財産)には、16/32 ビット組込みRISC マイクロプロセッサ、データエンジン、3Dプロセッサ、デジタルライブラリ、組み込みメモリ、ペリフェラル、ソフトウェア、開発ツールならびにアナログ機能や高速インターフェース製品が含まれます。 ARM は、ARMの幅広いパートナーコミュニティと共に、信頼性の高い製品を迅速に市場へ投入するためのトータルシステムソリューションを、大手エレクトロニクス企業に提供しています。ARMについて詳しくは当社Webサイトをご覧ください。(http://www.jp.arm.com/)
T-Engineフォーラム(会長:坂村 健)について ユビキタス・コンピューティング環境構築のためのオープンなリアルタイムシステム開発プラットフォームT-Engineアーキテクチャの研究開発、標準化、普及啓発活動などを実施する非営利の任意団体。会員数は国内外の企業や研究機関など約500組織となっている。 T-Engineフォーラムの詳しい情報はhttp://www.t-engine.org/で公表している。
*eBinder、eParts、PrKERNEL、PrKERNELv4、PrFILE、PrCONNECT、PictDirectは イーソル株式会社の登録商標です。 *eT-Kernel、PrHTTPD、PrMAIL、PrSNMP、PrUSB、PrPCCARDはイーソル株式会社の商標です。 *ARM、ARM Powerdは、英ARM社の登録商標です。ARM11、MPCoreは、英アーム社の商標です。
「ARM」とは、ARM Holdings plc、その事業会社であるARM Limited、各地域の子会社であるARM INC.、ARM KK、ARM Korea Ltd.、ARM Taiwan、ARM France SAS、ARM Consulting (Shanghai) Co. Ltd.、ARM Belgium N.V.、AXYS Design Automation Inc、AXYS GmbH、ARM Embedded Technologies Pvt. LtdおよびARM Physical IP, Inc.の全部または一部を意味します。
*TRON は"The Real-time Operating system Nucleus" の略称です。 *ITRON は "Industrial TRON" の略称です。 *μITRON は "Micro Industrial TRON" の略称です。 *TRON, ITRON, T-Engine, T-Kernel はコンピュータの仕様に対する名称であり、 特定の商品ないしは商品群を指すものではありません。 *記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。
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