大きな夢を持って「世界のイーソル」をめざそう。 大きな夢を持って「世界のイーソル」をめざそう。

特集

キーマン対談③

今回のキーマン

shinpei kato

加藤 真平

ティアフォー創業者兼取締役CTO

プロフィール

取材当時

2004年 3月 慶應義塾大学 理工学部情報工学科 卒業
2006年 3月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科開放環境科学専攻前期博士課程 修了
2006年 4月 日本学術振興会 特別研究員(DC1)
2008年 3月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科開放環境科学専攻後期博士課程 修了(工学)
2008年 4月 慶應義塾大学大学院 理工学研究科開放環境科学専攻・訪問
研究員
2009年 4月 日本学術振興会・特別研究員(PD)、東京大学情報理工学系研究科
コンピュータ科学専攻・特別研究員(PD)
2009年 9月 Carnegie Mellon University, Dept. of Electrical and Computer Engineering, Research Scientist
2011年 7月 University of California, Santa Cruz, Dept. of Computer Science, Research Scientist
2012年 4月 名古屋大学大学院 情報科学研究科情報システム学専攻・講師
2013年10月 名古屋大学大学院 情報科学研究科情報システム学専攻・
准教授
2015年12月 株式会社ティアフォー・創業者 兼 取締役最高技術責任者
(現在)
2016年 4月 東京大学大学院 情報理工学系研究科・准教授(現在)
2016年 4月 名古屋大学 未来社会創造機構・客員准教授(現在)
2018年12月 The Autoware Foundation・代表理事(現在)
見どころ

当社とティアフォーは戦略的パートナーシップを締結し、自動運転技術の本格的な商用化と普及に向けて、様々な取組みを行っています。

今回、ティアフォーの創業者兼CTOである加藤氏と当社の専務取締役である権藤が、このパートナーシップ締結の経緯から将来的な展望について、両社のビジネスの発展のみならず、業界や社会への大きな貢献にどうつながるかという視点で、ざっくばらんに語り合いました。

01戦略的パートナーシップ締結の目的

両社の強みを活かした自動運転技術の開発

権藤
2021年7月、当社とティアフォー様は自動運転技術の商用化に向けた戦略的パートナーシップを締結しました。もともと私たち二人は、加藤先生が名古屋大学にいらした頃からオープンソースの自動運転ソフトウェアAutowereの開発や当社のスケーラブルリアルタイムOSであるeMCOSを用いた共同研究プロジェクトを行っていました。その後加藤先生がティアフォーを創設したこともあり、現在世の中に普及しているADAS(自動運転支援システム)のレベルを超える完全自動運転システムの共同開発を本格化させ、社会実装につなげることを目的に正式なパートナーシップ契約を結びました。
加藤氏
2015年のティアフォー設立の際には、イーソルに出資をお願いして株主にもなって頂きました。ティアフォーはハードウェアもソフトウェアも手掛け、さらにメカニックな開発も行っている、いわゆるフルスタックの会社です。一方、イーソルは自動運転ソフトウェアの分野では国内随一の企業で、組込みソフトでは世界トップクラスの実績をお持ちです。この提携によって、トップレーヤー同士がお互いの強みやプロダクトを活かしてWIN-WINの関係を築くことで、業界や社会の発展に向けた新たな価値提供に向けた開発を加速することを目指しています。
権藤
提携の根底にあるのは、これまで育んできた加藤先生と私との信頼関係です。さまざまなものの考え方や、研究開発に対する姿勢など似ている部分も多いですよね。例えばリスクなしでつらい思いをするよりも、少々リスクがあっても楽しいことに挑戦するというようなマインドセットの重なりがある。それで気が合って一緒に研究開発をしてきたのですが、ティアフォー様の設立を機に、会社同士の戦略的なパートナーとして提携を行いました。
加藤氏
いわば個人的な関係から始まった共同研究・共同開発から、企業間ビジネスのフェーズに移ったという線引きをしたんですね。実は戦略的パートナーシップを結んだために、失うものも結構あります。例えばなにか失敗しても言い訳できないし後戻りもできなくなる。ですから、よく知っている信頼できる相手でないと提携を結べません。また、戦略的パートナーシップによって、実質的にエクスクルーシブになります。イーソル側から見ると自動運転のスタートアップ領域はティアフォーと、ティアフォー側からすると組込みソフト領域はイーソルのみと協力するということです。そこで人間関係的にも事業的にも納得できる2社で挑戦していこうとお互いに判断した結果だと思います。
02戦略的パートナーシップの概要

AutowareとeMCOSによる自動運転技術を提供

権藤
Autoware(※ AutowareはThe Autoware Foundationの登録商標)を使用した自動運転技術の商用化を進めるには、機能安全認証や高品質で高機能なソフトウェアプラットフォームヘの対応が重要です。市場におけるニーズも高まっていることから、戦略的パートナーシップの締結によって自動運転技術の商用化と普及を一層加速させることを目指します。そのためにティアフォー様とイーソルは、自動車分野向けの機能安全規格(IS026262)に準拠したeMCOS上にAutowareをインテグレーションし、両社の顧客に対してAutowareを活用したエンジニアリングサービスの提供を行います。
加藤氏
具体的には、第1段階としてお互いに自動運転に関する専門技術を持ち寄り、Autowareを使用する顧客に提供します。そして必要とする機能など、顧客からさまざまな意見や要望を聞いたうえで、その要求に対応するエンジニアリングサービスを提供することで、自分たちのノウハウの蓄積やスキルアップを図ります。第2段階では両社のプロダクトを、例えば次世代のAutowareプラットフォームであるAutoware.AutoをeMCOS上に組込み、商用としてAutowareによる自動運転技術を必要とする顧客に提供します。さらに、ティアフォーとイーソルの強みを活かした、新たなソリューションやサービスも継続して検討していきます。
権藤
イーソルとティアフォー様のポジショニングやバックグラウンドは大きく異なります。1975年設立のイーソルは組込みソフト、しかもハードウェアに近いシステム領域に強みを持ち、すでに自動車会社を始めとする各種産業からJAXA(宇宙航空研究開発機構)の衛星まで多くの顧客を抱えており、実際に現在の社会にプロダクトやエンジニアリングサービスを提供しています。ただし実績や安心・安全面での信頼性はありますが、歴史ある会社だけにどうしても新しいものを生み出すようなイメージに欠ける部分があります。
 一方、ティアフォー様は、これまで世の中になかったものを送り出そうとするスタートアップです。新しい市場に対して、まだ誰も実現していないものを作り出すことを目指し、高い技術力を持ち動きも速い。しかし、特に自動運転など人命に関わる技術においては、安心・安全に対する顧客の見方はどうしても厳しくなりがちです。戦略的パートナーシップによって、お互いの強みを生かし弱い部分を補完し合えることも、期待できる大きなメリットです。
03進捗状況や具体的な成果

自動運転車の実証実験や施設内自動搬送システムを実現

加藤氏
提携内容で説明した第1段階については、ほぼ予定通り進んでいます。具体的な成果としては、ティアフォーとヤマハの合弁会社eve autonomyが、工場内の自動搬送システムを開発しました。365日24時間無人で稼働でき、すでに商用化されて販売も始まり、工場や学校のキャンパスなどで利用されています。基本的にはティアフォーが自動運転ソフトを提供し、最後の安全検証やシステムの統合などをイーソルが行いました。また、実証実験の段階ですが、川崎重工と損保ジャパン、SOMPOケアと共同で、時速約6キロで走行する自動搬送ロボットの走行実験を都内で実施しました。これも自動運転機能をティアフォーが提供し、イーソルがインテグレーションを行いました。さらに一般公道における自動運転バスの実証実験も始まっています。現在、国が主導して2025年までに全国50カ所以上で運転席が無人となるレベル4での移動サービスの実現をめざしており、、自動運転の社会実装を目指す長野県塩尻市で行われている実証実験のバスにも、提携による両社の技術が応用されています。
権藤
プロダクトの部分でいうと、ティアフォー様は技術開発を行いながらソリューションを提供するために、研究開発投資をかなり投入されています。一方、イーソルでも現在eMCOSの開発を中心に、売上比で約20%という大規模投資を行っています。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の国プロにおけるRISC-VのeMCOSによる開発や、Autowareをより安定して高速に動かすOS側に必要な機能、自動運転アプリケーションの開発を効率化するOSおよびツールなど、求められるさまざまな機能、性能、スペックを取り込んだ開発を進めており、現在その大部分がほぼ見えてくる段階にあります。
加藤氏
われわれが目指すあるべき姿は、お互いのプロダクトを出し合うことで、顧客が要求する三つの要素、高品質、短納期、低価格の実現です。今は時間がかかって品質も十分とは言えず、価格も高いのが現状で顧客の期待値を満たしていません。ティアフォーとしても、そもそも完全自動運転の開発自体がかなり高度で難度が高く、一方、イーソルではGPU、アクセラレーター、RISC-Vのような今までにないCPUアーキテクチャーなどさまざまなハードウェアがあり、現状では変動的な要因がまだ多く、eMCOSもメニーコアで行くのかは定まっていません。おそらくあと数年で自動運転に使われるハードウェアが固まりOSも決まります。するとお互いのプロダクトを出し合えるようになり、これまで1年かけて開発していたものが、例えば1か月という短期間かつ低価格でできるようになるはずです。
04自動車業界や社会に与える影響

自動運転技術を応用し社会の知能化に貢献

加藤氏
これまでの自動車は主に“シンプルなソフトウェア”、閉じたソフトウェアの集合体で作られてきました。ハードオリエンテッドな開発が中心であり、いわゆるレベル4や5に相当する自動運転やコネクテッド技術等の導入も進まず、巨大な自動車産業の中でも、われわれがターゲットとする市場は小さいものでした。しかし、近年ようやく国の政策や業界のマーケティング戦略によって、ソフトウェアデファインドの流れが加速し、ソフトウェアオリエンテッドな開発へとシフトし始めています。これからイーソルとティアフォーが提供する、オープンソースを基盤とした“複雑なソフトウェア”が、自動運転やIVI(車載情報通信システム)の開発に一層貢献するとともに、ソフトウェア化が進むモビリティ市場に対して、あるべき姿のフレームワーク、アーキテクチャーを提示できるものと考えています。
権藤
国内だけでなく海外へ発信力も、われわれの強みです。The Autoware FoundationやAUTOSAR(※ AUTOSARは当社がプレミアムメンバーとして仕様の策定に参画する、自動車業界のソフトウェア標準化団体)でのコミュニケーションやドキュメントは全て英語で、イーソルの担当者や私自身も英語で議論します。もちろん加藤先生をはじめティアフォー様も同じです。優れた技術を持っている日本企業であっても英語で不自由なくコミュニケーションがとれ、グローバルに活躍できるところは意外と少ないと思います。自動運転を実現できる“複雑なソフトウェア”に対応でき、垂直統合をやれる技術要素を有し、さらに英語を苦にしない企業文化を持っている会社は、大手企業でもなかなかありません。そんな2社が提携することは、日本では貴重なペアリングであり、そのポテンシャルは非常に大きいのではと思っています。
加藤氏
もしティアフォーやイーソルがなくても、自動運転はいつか必ず他社が実現します。極端な話、1人の研究者が100年頑張れば、死ぬまでに1台か2台かはともかく自動運転車を作ることは可能です。その代わり膨大な時間とコストがかかります。
 ティアフォーとイーソルはそれをどこよりも早く実現することができるのです。自動運転に関して他社をしのぐ性能のプロダクトをはじめ、製造方法や効率化のノウハウ、最適なツールを持っており、コストダウンの方法も知っています。私たちがいなければ2040年頃まで待たないと実現しない安全で品質の高い完全自動運転が、両社が組むことでその完成がずっと早くなるはずです。
権藤
今後、自動車以外にもさまざまな機器の知のインテリジェンスが向上していきます。Society5.0と言われている、コンピュータやロボティクスなどを活用して社会を知能化し豊かにする取り組みが進められていますが、例えば自然災害の際の情報提供は可能ですが、避難経路の自動案内や、危険な河川の水門の自動開閉などの社会やそのインフラを自動運転のように自動制御をするには高いハードルがあり、ほとんど社会実装できていません。その理由はミッションクリティカル、つまり少しでも判断を間違えると人の命に関わるからです。自動運転車も全く同じで、判断や制御を間違えると事故に直結するため、“複雑なソフトウェア”をミッションクリティカルな領域に持ってこなければいけません。そして安全・安心な自動運転のテクノロジーをいちはやく確立させ、それをモビリティに限らずさまざまな自律制御等に応用することが、社会全体のインテリジェンス化を実現するブレイクスルーとなるでしょう。われわれの提携によって生み出される技術が、10年、20年後の未来社会の発展に大きく寄与できるものと期待しています。